三枝博士
三枝博士のおしりクリニック
炎症性大腸疾患の皆さんへ
-炎症性大腸疾患(Inflammatory Bowel Disease;IBD)とは-
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1.IBDとは
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IBDとは、主に潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis; UC)と、クローン病(Crohn's disease; CD)を一般的に指し、慢性の腸管粘膜の炎症を主座とする疾患です。原因については不明な点が未だに多いのですが、特に飽和脂肪酸を多く含む動物性脂質・タンパク質などの食餌由来抗原に対する腸管粘膜内での免疫(アレルギー)反応の関与が取り沙汰されています。また少数ですが遺伝性も指摘されています。
2.症状は
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症状は、UCとCDで相違がありますが、いずれにもみられ得るものとしては、下痢、血便、体重減少、貧血、ひどくなれば腹痛や発熱などがあります。
ただしUCの場合、多くの患者さんは直腸ないしS状結腸に炎症が限局しているため、少量の血液を含む粘液の排出が持続する程度の症状であることが多いと思われます。
CDでは、上記のような腸管由来の症状が起きる前に、約半数の患者さんで肛門周囲腫瘍/痔瘻や(クローン)裂肛など、肛門症状が出現すると言われています。
その他、UCでもCDでも皮膚症状、関節症状、胆管炎、膵炎、血栓症、眼症状など、多彩な腸管外症状を来し得ることが知られています。すなわち、IBDは全身疾患と考えるべき病気と言えます。
3.診断は
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診断は、同じ痔瘻であってもCD合併痔瘻は通常の痔瘻とは様相が異なることが多く、熟達した専門医であればおしりを一目見ただけでCDとわかってしまうことも少なくありませんが、腰椎麻酔ないし仙骨硬膜外麻酔下に全く無痛の状態で排膿などの肛門部の処置を行うことが大切です。もちろん、診断にあたっては大腸内視鏡検査や組織生検、さらに場合によっては小腸の検査も行い、厚労省難治性炎症性腸管障害研究班による基準をもとに診断してゆきます。1)
UCでも下痢による痔瘻から診断がつく場合があり、いずれの疾患も大腸内視鏡検査に習熟した肛門科医が深く関わる疾患です。
なお、IBD初発患者さんは若年であることが多いので、当院では内視鏡挿入に際しては適宜鎮静剤を用い、苦痛のない検査を心がけています。
4.放置すると
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放置すると、UCでは炎症の範囲が口側へ拡大し、また炎症の程度もひどくなり、中毒性巨大結腸症や、ひいては発癌に至る場合もあります。CDでは腸管に瘻孔(孔が開くこと)や狭窄を来し栄養障害からひどく痩せてしまったり、腸管切除が必要となったりします。また肛門病変はとりわけ難治性が高いとされ、腫瘍の拡大、膿排出の持続、さらに肛門狭窄、最終的には癌化の可能性が高くなります。
5.治療は
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治療は、以上のような経過を辿らせないようにするために必要となります。すなわち、UCでは直腸炎あるいは炎症が比較的軽いうちに、まずサリチル酸系薬剤を中心とした内服と坐剤を使用してゆきます。UCの大半は軽症例ですので、これらの比較的副作用が少なく容易な治療で寛解を維持できることは少なくありません。もし慢性に炎症が持続する場合は健康保険外の自費となりますが「青黛(せいたい)」という漢方薬を用いることもあります。さらには最近では、生物学的製剤(Biological agents;BIO)も難治例には用いられます。
CDでは、特に若年発症で肛門病変のある場合は一般的に難治で、通常の痔瘻手術を行うと術後括約筋機能不全が起き、また放置すると日常生活が損なわれひいては肛門機能が廃絶するため、このような患者さんに対してはEuropean Crohn's and Colitis Organisation(ECCO)の提唱するガイドラインに従い、当院ではまず痔瘻にseton drainage(細い紐を痔瘻瘻管に通し、持続的に膿を出すようにしておく処置)後、積極的にBIOを導入し、これまで良好な治療成績を得ています(Top down療法)2)。
現在使用できるBIOとしてはAdalimumab(ヒュミラR)とInfiximab(レミケードR)が認可されていますが、当院では今のところ、投与時アレルギー反応が比較的少ないヒュミラを用いています。なおBIOについては特にネット上で副作用ばかりを強調するような話も見受けられ誤解されておられる方も少なくないようですが、導入前に綿密なスクリーニング検査を行い、導入後も採血や胸部X線撮影などを適切に行ってゆけば、重大な副作用はそう滅多に起きるものではありません。難治例では投与による治療効果が、稀な副作用の発現リスクを上回ると考えられます。
6.治療費は
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治療費は、IBDは厚生労働省指定難病ですから、診断基準を満たし所定の診断書を保健所に提出すれば公費による治療費の減免が受けられます。
文献
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1)Naoto Saigusa, Tadashi Yokoyama, Masaru Shinozaki, et al. Anorectal fistula is an early manifestation of Crohn's disease that occurs before bowel lesions advance: a study of 11 cases. Clinical Journal of Gastroenterology: 2013(6) p309-314
2)三枝直人、三枝純一、横山正ら、痔瘻で初発したクローン病症例に対し“Top down療法”は有効である。日本大腸肛門病学会誌 2016年 第69巻8号 [in press]